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4-1.(mis)understanding self-management

4-1-23 既存のシステムを導入する?(Adopting a ready-made system?)

自分の組織を自主経営へ移行しようと考えだすと、根本的な選択に直面します。
自分の組織に合うような独自の特別な自主経営の形を進化させていくか、既存のシステムを導入するかです。

既存のシステムといえば、ソシオクラシーやホラクラシーが有名です。限定的な地域で知られた小さなシステムもあります。
私はバスク州でNuevo Estilode Relaciones(NER)という優れた組織と出会いました。そこは独自のツールや構造で自主経営を実践しており、60組織ほどがその既成のシステムを導入し、その数は毎年増え続けています。

私の考えでは、これは根本的にはスピードか抵抗かの選択です。既存のシステムを導入すると移行のスピードは早くなります。しかし抵抗が強くなる可能性があります。

覚えているかもしれませんが、2-6の動画では実験と標準化についてお話ししました。既存のシステムを導入すれば実験なしで済みます。システムに慣れるための実験が不要です。すぐにシステムを導入できます。

カギとなるのは組織の準備の整い具合です。自主経営への準備が整っていたりできる限りのことを終えている場合、既存のシステムを導入すれば移行がはるかに早くなります。しかし準備が整っていない場合、抵抗が強くなるでしょう。
たとえば私の知るコーチのグループは、自分たちでたくさん勉強し、しっかり準備が整っておりホラクラシーを導入しても抵抗なく大歓迎でした。

あるいはバスク州のNERのシステムの場合、その導入を検討する組織は大半が経営難で、危機を脱するため何か変えねばと思っています。NERのやり方は素晴らしく、導入を検討している組織に1日休みを取ってもらい、導入から数年経った別組織を見学してもらうのです。そこで経験者から話を聞いてシステムを学び、会社に戻って投票します。
“NERの自主経営システムを導入したいかどうか”
賛成が80〜90パーセントくらい大多数になれば導入されます。NERへの強い信認があり準備が整った状態です。

準備が整っていない場合、大きな抵抗が予想されます。私だって抵抗するでしょう。
自分の仕事をしたいのに上が新しいものを押しつけてきて、新しいプロセスや会議の形などを学ばなくてはいけなくなる。そういう押しつけには私だって抵抗します。なぜなら自分で選んでおらず、検討過程にも参加していないからです。
“またトップが何か言ってる。どうせ一時の関心だ”
と感じます。またトップが誰かの意見や方法論に感化され、それに付き合わされると感じるのです。

また別のリスクとしては、新しいシステムにただ形式的に従うだけで、その奥にある存在目的やその存在目的にシステムがどう役立つか理解しないことです。

リーダーは考えてみましょう。
“組織はどれほど準備ができている?”

二者択一のように語りました、“独自の進化か既存のシステムか”。しかし実際は、片方からもう片方に移る場合もあります。
独自の形で始めていると、自主経営への理解は進むものの何か欠けているように感じられ、ソシオクラシーやホラクラシーが導入される。あるいは反対にホラクラシーを導入して最初は役立つものの、完全には自分たちに合わず、ホラクラシーの良い部分は残しつつ独自に進化をしていく。そういう形もありえます。
大きな指標は“準備”の他にもう1つあります。それはシンプルにリーダーの内なる欲求です。それから独自のシステムを築いていく能力です。

組織によってはリーダーたちが自主経営を学ぶことに一生懸命で、私の本や他の本を読んだりしてシステムを変革することへの強い欲求があります。一方別の組織ではリーダーが自主経営の必要性を感じつつも、情熱を注いでない場合があります。
良心や方針に基づいて自主経営のスタイルを目指しますが、本当の関心は目的意識や他のところにあり、たとえばそういうリーダーたちは組織化や意思決定の方法を熱心に考えるタイプではなく、小組織では代わりに舵をとる人もいません。その場合は既存のシステムを導入し、外部の人間を連れてきて、コーチやファシリテーターとして導入を手伝ってもらいましょう。

バスク州の組織がその一例です。破産の危機にあるオーナーがNERに連絡するのです。
“NERの取り組みを知り自主経営が必要だと思うけど導入の方法がわからないから助けてほしいんだ”
理にかなった方法です。

私からの問いは2つです。
準備の度合いは?
自主経営への移行を牽引する人が組織内にいますか?それとも外部から借りる方が楽ですか?

それから常に自分のバイアスも意識しましょう。私は案を練るのが好きなので独自の自主経営法を考えようとしがちです。しかしそれがいつも正解とは限りません。
組織の準備が整っているなら、私は気持ちを抑えて別のことに取り組み、外部のシステムを導入した方が効率的かもしれません。

その逆にも注意しましょう。組織の準備がまだなのにスピードを求めすぎるかもしれません。最初は自分たちで進めていき、後で必要なら既存のシステムを導入してもいい。またはリーダーに独自の方法を考える力や意志がなければ、組織の別の人間がその役を担ってもいい。
ぜひ自分のバイアスを確認して自分ではなく組織に何が必要か最適な判断を下しましょう。

ソシオクラシーとホラクラシーの話は詳しくさせてください。この2つは他よりも有名なモデルです。

ソシオクラシーは形態が様々なのですべて詳しく語ることはできません。ホラクラシーのように型が決まったものだと考えている人もいます。複数の“サークル”や2種類の“リンク”があって…そういう人は既存システムの実装のように考えます。
一方で“ソシオクラシー3.0”を提唱するジェームス・プリーストらは、ひとつの型というよりパターンの組み合わせと考えています。各組織は複数のパターンから必要なものを選び自分たちの旅に合わせて取り入れるのです。
私なら導入を手伝ってくれるトレーナーとたくさん話して、トレーナーのなかにある好みの偏りやバイアスを確認し、どういう形で導入を進めがちか傾向も把握しておきます。

ホラクラシーはまた事情が違います。ホラクラシーは確固たる型を備えたものであり固定的なシステムです。そして大きく評価を二分する興味深いシステムです。なぜか人はホラクラシーを愛するか憎しむのです。その中間の人は多くないように感じます。
研究したわけではありませんが、私の理解ではホラクラシーを導入して憎んでいる人というのは、ホラクラシーやその活用法を理解せず導入したのです。反対にホラクラシーを愛する人は事前によく理解していました。

ホラクラシーの導入を検討しているのなら、次の点を考慮してみてください。

まず他の既存システムと同じく、ホラクラシーという既存システムも導入は組織への押し付けになる面があります。上からの押し付けです。ホラクラシーというフレームワークの導入後は柔軟性が生まれ、どんどん自分たちなりに進化させることができます。
しかし避けようのない事実として、初めは押し付ける形になるため抵抗が生まれもするのです。
そして抵抗を最小化していくには、ある領域で試験運用して成功例を見せ、導入へ前向きにさせたり、バスク州のように投票をしたり、導入への意欲を高める方法はたくさんあります。しかし現実には導入にあたり、リーダーからの最後の権威的な行為として言うのです。
“ホラクラシー憲法に調印したから導入してください”

他に考慮すべき点は、ホラクラシーもどんなシステムも考案者の思想がかなり反映されるという点です。
ホラクラシーの考案者ブライアン・ロバートソンは明確さを愛しており、ホラクラシーはほとんど自動的にきわめてシステマチックにすべてのものが明確化されます。曖昧さをなくすことが目指され、明確にロールやアカウンタビリティや意思決定法やドメインや方針が示されます。
ホラクラシーではすべてが明確です。あなたや組織に明確さを好むバイアスがあるならホラクラシーは効果的でしょう。

また一方で、ホラクラシーは学習曲線が急であることも事実ですつまり学ぶことがたくさんあります。チームではなく“サークル”と呼び、ドメインにもサークルのドメインやロールのドメインなどがあり、とても複雑で学ぶことがたくさんあるのです。

そのため組織によって導入には向き不向きがあります。
明確さの文化がある組織やそれを目指す組織は向いています。他方オランダの看護師組織ビュートゾルフなどはホラクラシーには向きません。彼らの業務は細かなルールを導入するほど複雑ではなく、看護師たちの文化も導入を拒否するでしょう。また別のIT組織があったとします。アジャイルやスクラムという概念に慣れ、1人が複数の役割を担い記録管理を重視する組織はホラクラシーが合うでしょう。
ぜひ自分の組織について考えてみてください。

もうひとつ考慮すべきは、ホラクラシーは学ぶことが多いため、導入した多くの組織が言うように全体で導入に専念する時期が生じてしまうことです。
どんな形の移行にもこうした集中期間はつきものですが、ホラクラシーのように学習量が多い際は特に起きがちで、しばらく顧客への対応が中断されます。組織内のことに強く集中するからです。必ず生じるわけではありませんが考慮すべきリスクです。

知っておくべきことは他にもあります。
ホラクラシーはきわめて詳細に組織の“オペレーティングシステム”も明確にします。意思決定法やロールの分担方法、情報の伝達法などさまざまな事柄がホラクラシーでは明確に規定されています。

しかしホラクラシー導入にあたり多くの人が無自覚なのが、実はホラクラシーには“アプリ”と呼ばれるドメインがあり、そこでは何も規定されていないことです。
それには賢明な意図があります。やり方が無数にあるドメインについては自前の“アプリ”をインストールして独自の道を探すのです。そのためホラクラシーは実績評価や採用基準や解雇基準について何も規定していませんし、人事評価や予算についても規定していません。たまにこう言う人がいます。
“既存のシステムだし簡単に導入できると思っていた”
大部分は簡単ですがアプリの部分は違うのです。それも知っておくと良いでしょう。

最後にあまり知られていない面も紹介しておきます。ホラクラシーが見ているのは“組織スペース”のみであり、“私たち”のスペースに目を向け、そこでの役割を円滑にします。個人や対人間のスペースには目を向けません。“仲間内のスペース”です。
ホラクラシーを導入した組織の多くから耳にしたのは、しばらくじっくりと集中して新しいツールや慣行をたくさん学ぶせいで、どうしても忘れてしまうという点です。温かく、つかみ所のない対人スペースを忘れ、すべてが冷たく機械的に感じられるのです。

しかしそう感じる必要はないとホラクラシーは主張します。
“規定はないので交流を続けてください”
“金曜の夜に飲みに行くなどルールにはない温かな関係を育んでください”
問題は移行の過程で関係性を忘れることです。人間味ある温かな文化が忘れられてしまい、冷たく機械的になる。そんな点にも気をつけましょう。

そして関係性だけでなく、ホラクラシーは個人の内面にも目を向けません。トレーナーにもよるでしょうが、基本的にホラクラシーの導入を教える際の焦点は、ミーティングの方法を伝えて経過をみるといったもので、次のように自問する機会は設けられていません。
“この気持ちは何だろう?管理職が消滅して痛みを感じてる?”
基本的に移行時の内面の変化に向き合う機会は作られていません。そこは足りない部分です。よりスムーズに移行するために意識して加えるといいでしょう。こうした視点が役立つことを願います。

ホラクラシーやソシオクラシーの美点は他にもたくさんあります。既存システム導入時の難点についても同様です。

繰り返しになりますがぜひ考えてみてください。
組織はどれほど準備ができている?何が最適でしょう?
独自の進化?、既存の慣行の導入?
それともその両方でしょうか?

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