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2.Perspectives on the journey

2-6 実験と標準化の緊張関係(Tension between experimentation and standardization)

変革を進めるときに注意しておきたいのが、実験と標準化をめぐる緊張関係です。この緊張関係は変革の旅で必ず生じるでしょう。無自覚かもしれませんが、多くの組織で起こるので意識しておくと役に立ちます。私たちが知らぬ間に前提としているのは、すべてを標準化すべきだという考えです。どのプロセスも明文化し統一するべきという訳です。もし何かプロセスや制度を変える場合は、誰かが中心的に新しい案を作り全員に押しつける。その方法を選択することも可能です。いま取り組んでいる組織変革においてもです。現状のあらゆるプロセスを自主経営などの新しい形に変えるときに標準化をしてもいい。最初からやり方を決めて従ってもらうのです。

私が調査した組織の多くは別の方法をとっています。そうした組織は進みたい方向を全員に示したうえで実験を呼びかけています。部署やチームが違ったとしても、場所や国が違ったとしても、同じ方向を目指してしばらく実験を続けるのです。やり方やペースが違ってもです。

例を挙げましょう。大きな店舗をたくさん持つ小売チェーンが自主経営を目指しました。やり方は各店舗それぞれでした。ある店舗は、手始めに役割を再定義して組織をフラットにしました。しかし店長という地位はしばらくの間残しました。別の店舗では、店長を交代するにあたり上層部に店長を選ばせるのではなく自分たちで募集要項を書いて店長を選びました。別の店舗では、4人のチームを新しい店長にして役割を分担しました。こんなふうに各店舗がそれぞれ実験を始めたのです。とても効果的な方法です。

一方で実験と標準化の緊張関係は常に起こります。実験の利点は多くを学べることです。各店舗が多様な実験を行うので何が機能するか見分けやすい。一方、全員が同じやり方だと学びは少なくなります。他の利点もあります。メンバーの積極性が増すのです。案を上から押しつけることがないので、より主体的に実験に取り組んでくれます。標準化にも利点はあります。しばらく時間が経ち実験期間が長くなりすぎると混乱が生じてきます。“みんな色々やってるけどうちのチームはどうしよう?” “誰に相談すればいい?” そんな混乱が起きるので、しばらく実験したあとでこう提案すると役立ちます。“何が機能するかは学ぶことができたし、この方法が一番良さそうだから標準化して全社に導入しよう” “役割定義の仕方は○○で、意思決定の仕方は○○、情報共有や会議のやり方は○○とします。実績の評価法は○○で対立の対処法は○○。チームの実績管理法は○○としましょう” ある段階でシンプルにするのが重要です。全体のやり方を定めて、各チームの実験を止めましょう。

私から提案したいのは、いつ実験しいつ標準化するかを適切に見極めることです。リーダーは自分の好みで進めてはいけません。早く標準化したがる人もいます。私は物事をハッキリさせたい性分なので、標準化を急かしすぎる可能性があります。同じような状況に陥る組織もあります。学びが不十分なのに標準化に移ってしまうとその標準化の過程が上からの押しつけという古いやり方になってしまう。反対に、標準化しようとせず失敗する組織もあります。すると人々は収拾がつかず混乱してしまいます。標準化しないのは思い込みがあるからです。“これから向かう新しい世界ではルールを決めてしまったり標準化や公式化をすべきでない”という考えです。従来のやり方で痛い目にあってきたので、標準化して上から命じるのを避けているのです。ですが明確さも必要です。決まったルールがある方がやりやすい時もあるのです。

忘れないでください。ルールと言っても“暫定的な”ものです。良い案があれば誰でも変えられます。標準化した方がいい場面もあるという話です。標準化を避けようとしたり、着手が遅すぎる企業は多いです。そこで提案です。“標準化すべきだ/すべきでない”と頭で考えず、ひたすら現実に耳を傾けましょう。新しい実験や改革を始めて、それに伴う痛みが増していると感じ取ったら標準化に切り替えましょう。

一方で面白いことも分かりました。それは標準化が必要ないものもあるということです。私には新しい観点でした。ビュートゾルフの事例で初めて気づいたことです。オランダの地域ケア組織で10〜12人の看護師1,000チームほどを抱えています。ビュートゾルフには固定の評価制度がありません。シンプルな大枠があるだけです。少なくとも年に一度チーム全員で話し合い、フィードバックを交換し合うのです。しかし評価やフィードバックの方法はチームに任せています。決まったひとつの評価制度を組織全体のために標準化する必要はないのです。たしかに役立つ時もあります。標準化が役に立つのは周りとの比較が必要な場合です。たとえば標準化する価値があるのはチームのパフォーマンス指標です。ビュートゾルフのような組織でもチームの生産性を比較するには統一基準が必要です。

もっと分かりやすい例は“役割”です。新しい組織では各人の役割が流動的です。自主経営には肩書きや役職がないという話は前にしました。チーム内で自分たちなりの役割を決めていく形です。でも少し経つと混乱が生じます。そっちでは誰がこの役割の担当?誰と話せばいい?なので役割を標準化した方がいい時もあります。掲示板やデータで誰が何の担当か明確にするのです。一方、チーム内で完結する物事については必ずしも標準化する必要はない。私には新しい発見でした。なぜ新しかったかと言えば標準化の効果を過大評価していたからです。標準化は高効率だと信じすぎていて、標準化の押しつけによるやる気の低下を軽視していたのです。

おさらいです。大切なポイントは自分の考えに現実を合わせるのではなく、常に現実を観察しながら考えることです。緊張関係はどこにある?痛みや希望はどこ?この施策は実験を後押しする?もう少し実験を続ける?それとも組織全体に標準化する時期?

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