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4-1.(mis)understanding self-management
4-1-10 誤解6:コントロールは悪だ(Misconception 6: Control is bad)
この誤解は非常に広まっているため、私が関わる組織にはほぼ必ずお話してきました。誰にも当てはまる部分があると思うので、ぜひしっかりとご覧ください。
その誤解とは、“コントロールは悪だ”というものです。
確かに多くの組織においてコントロールが破綻しています。コントロールとは困った雑草のようなもので、何か問題が起きたり、問題が起きそうだと感じたら、すぐに組織はコントロールしようとします。手順や規定や過程を取り決めて全員を従わせるのです。もちろんそれらは状況が変われば効力を失うので、困った事態が生じていきます。カスタマー・サービスでもこんなやり取りがあるはずです。
“なんでこれができないの?”
“すみません、そういう規定でして…”
一度何らかの目的で導入されると、その目的や予算が効力を失っても固執してしまうのです。組織の“承認制度”もその一例です。もうこんな承認は不要だ、と感じるときがあります。コントロールの仕組みは雑草のようであちこち絡まって非常に厄介です。
このようにして多くの人は“コントロールは悪だ”と思い込み、自主経営ではコントロールをなくすべきだと誤解するのです。
ですがコントロール自体は悪いものではありません。
むしろ良いものです。
つまり、組織を生命体だと考えると、生命体にはコントロールが必要です。
私という生命体の身体を考えてみましょう。この身体においては、自分の体温を36〜37度に保つ必要があります。だから体内のシステムにうまく管理してもらい、異常があれば対応してほしいものです。
組織にも同じことが言えます。コントロールされている方が良いのです。コントロールや自己管理という単語を嫌がる人もいるので、言葉を変えてもいいでしょう。
たとえば“自己修正”です。
コントロールの乱れをシステムが自ら修正するという意味です。
これはとても重要なトピックなので、自己修正に特化した動画を2つ用意します。自己修正システムの理解はとても重要です。
ここではいくつかの側面を紹介しようと思います。よくある誤解は次のようなものです。
“コントロールの仕組みはすべて撤廃しよう”
“代わりは導入しない”
そして“信頼をもとに運営する”と言うのです。自主経営は、信頼で運営するとよく聞きます。それは正しくもあり間違ってもいます。確かに“信頼”は、間違いなく自主経営の基盤となるものです。自主経営の考え方はこうです。
“人は適切な環境に置かれると、きわめて強い責任感や高いモチベーションを持ち優れた成果を出す”
正しく振る舞えと強制する必要がないのです。“社員は愚かで怠け者”という従来の前提がないからです。
でも注意してください。信頼が機能する“適切な環境”が不可欠です。なぜなら、不適切な環境だと自分のだらしない部分が出るだろうからです。もっとひどい環境なら怠けてしまうでしょう。よく誤解されていますが、信頼という基盤の上に自己修正を可能にする仕組みが必要なのです。自己修正は別の動画で紹介します。
信頼は必要ですがそれで十分ではありません。説明のためストーリーを1つ紹介しましょう。AESのストーリーです。
世界中に発電所を持ち、4万人以上が在籍する企業で『ティール組織』で取り上げました。この企業は発電所を持っています。アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ。発電所はいい加減に扱うわけにはいきません。設備は大きく、規制や点検事項も多くあります。
つまり発電所には、コントロールが必要なのです。発電所のコントロールは悪ではありません。不要なのは従来のやり方です。つまり強制的なコントロールです。
従来は次のような形でした。AESの本部はワシントンにあります。たとえばその本部がすべてを取り仕切り、強制的にコントロールするのです。
リスク管理や整備や監査部門のトップが集まって、つまりスタッフ機能の管理者が集まり、詳細な規則やガイドラインを作成して世界各地の発電所に押し付けるのです。ペルーやウズベキスタンやタンザニアの工場が、ワシントンの人間が書いたものを受け取ります。それが現地の環境に合わないものでも、ルールに従うと署名してワシントンに返答するのです。実際に従うとは限りませんが…
AESの創設者デニス・バーキはそれを“幻想のコントロール”と呼んでいます。彼に報告にくるリスク管理のトップや監査部門のトップたちが口を揃えて言うのです。
“どの発電所も規則に署名をしたし工程を統一したからコントロールできている”
しかしそれは“幻想のコントロール”です。現場の実情は分からないままだからです。デニス・バーキは中央からの押し付けはせず、150人という最小限の本部で4万人の組織を運営しました。
しかしそれでなぜ混乱が生まれずコントロールを保てるのでしょう?
本部が全体に押し付けずどうコントロールするのでしょう?
AESが実行したのは、“志願者によるタスクフォース”をテーマごとに設けることでした。
たとえば監査やリスク管理など、テーマごとに志願者を募るのです。つまり各地の発電所から希望者や代表者が集まって、ボランティアによるタスクフォースが形成され、そのチームが世界共通の作業工程を考えるのです。
もちろん各地の人が集まるので本部が考えるより賢明な案になるでしょう。なぜならその案は、ウズベキスタンでもタンザニアでも、寒くても暑くても機能するはずだからです。良い案が出てくることでしょう。必要ならば相互に監査することもできます。自分が監査の人間ならチェック箇所もよく分かるのです。それがAESの方法でした。
業界によっては組織全体が厳密な規制があります。規制機関から要求されます。
“リスク管理のトップは?”
“これらの認証をとって正式に署名してください”
しかしそんなトップがいないAESなどはどうするのでしょう?シンプルな方法のひとつは、ボランティアによるタスクフォースがある場合、毎年ランダムにひとりを“昇進”させ、トップとして規制機関と会い、署名するのです。効果的なコントロールの仕組みだと言えます。ランダムな昇進ならば、自分が選ばれることもあります。
たとえば私の担当年にあなたが不正を働いて、とても危険なことをしていたら私の立場が危うくなります。だからランダムに誰かを選ぶ前に、全員で確認するのです。
“みんな信じていいよね?”
それもすごく強力な仕組みになります。
なぜなら、たとえばワシントンかどこか本部の人間から署名を強制されても、従う義理はありません。その人が刑務所に入っても気になりません。
しかしタスクフォースの場合は、一緒に最前線にいる仲間です。なので本物の相互関係が生まれます。“お互い相手に害を与えないようにしよう”という関係です。
私はそれを学んでから、こうしたプロセスが本当に危険を伴う場所で広く使われていると知りました。
たとえば世界各地の軍隊です。F-16のような戦闘機の大規模なメンテナンスの後は、初めての飛行の際、パイロットと一緒にメンテナンスチームのひとりがランダムに選ばれて乗ります。だからその前にパイロットは尋ねるのです。
“何か私に言うことは?選ぶ前に何か懸念はない?”
ほかにも、航空宇宙局のNASAでは、チャレンジャー号爆発事故の後導入されたそうです。NASAは宇宙へ人を送る前に、宇宙飛行士の配偶者や子供たちを招待して、関係者全員と1つの部屋に集めるそうです。そこで家族は全員に聞きます。
“私たちが知っておくことは?懸念があれば今言ってください”
この仕組みは、署名して規則に従う形よりも効果的だったといいます。
ポイントを整理しましょう。AESや戦闘機のメンテナンス、NASAの例を取り上げました。シンプルに古いコントロールの仕組みを撤廃し、信頼だけで進むのではありません。信頼を土台に置きながら、その上に新しい仕組みを築き、組織にコントロールを導入し必要なら自己修正していくのです。
AESらは、他の組織で見られる失敗を回避していました。その失敗とは、コントロール自体を撤廃してただ信頼に任せるというものです。それだと成功もあれば、失敗もあり、しかも自己修正できません。
最近、中国の組織の話を聞きました。その組織は積極的に、勤務時間を記録するという習慣を撤廃したのですが、創業者がある部門を見に行くと誰もいませんでした。休みや長期休暇を取っているのか、後で来るのか誰にも分からない。創業者は不満に思い、社員は信頼できないと考えました。そして施策全体を疑い始めました。自主経営は続けながらも、コントロールを導入したのです。勤務時間数をチェック制にしましたが、それは敗北だと感じたそうです。
私の考えを言えば、社員を信頼するのは正しいですが、環境が不適切でシステムが未整備でした。締切を肌で感じたり、自己修正するシステムがなかったのです。
このようにコントロールは悪ではないのです。ぜひ覚えておいてください。悪いのは、古いタイプのコントロールです。醜い仕組みで、誰かが誰かをコントロールすることです。
人ではなく、システムによるコントロールを目指しましょう。
たとえば何かがうまくいっていないとき、すぐに探知して、自己修正するシステムです。私の体にウイルスが入ってきたら、血液細胞がすぐに探知して対処するのと同じです。
自己修正システムについては、もう2つ動画があります。自主経営の理解に重要な内容なので、ぜひご覧ください。
4-1.(mis)understanding self-management
4-1.自主経営についての誤解
- 4-1-1 あなたにとって自主経営とは?(What does self-management mean for you?)
- 4-1-2 「なぜ(WHY)」から始める(Start with why)
- 4-1-3 組織の発達段階と自主経営(How to talk about self-management from all stages)
- 4-1-4 たくさんの誤解(So many misconceptions!)
- 4-1-5 誤解1:自主経営はリスクだ(Misconception 1: It’s risky)
- 4-1-6 誤解2:構造もプロセスもルールも不要(Misconception 2: No more structures, processes, rules)
- 4-1-7 誤解3:トップは意思決定をしない(Misconception 3: No more decisions “from the top”)
- 4-1-8 誤解4:全員が平等(Misconception 4: Everyone is equal)
- 4-1-9 誤解5:権限委譲とサーバント・リーダーシップ(Misconception 5: Empowerment and Servant Leadership)
- 4-1-10 誤解6:コントロールは悪だ(Misconception 6: Control is bad)
- 4-1-11 自己修正システムを理解する(Understanding self-correcting systems)
- 4-1-12 自己修正システムの事例(Self-correcting systems: examples!)
- 4-1-13 自己修正:出欠を通した意思表示(Self-correction: voting with your feet)
- 4-1-14 自己修正:リーダーの役割(Self-correction: the role of leaders)
- 4-1-15 コントロールを手放す喜びと痛み(Top leaders: the joys and pain of giving up control)
- 4-1-16 自主経営の5つの主要プロセス(Five key processes of self-management)
- 4-1-17 システム以外に重要なもの(Focus on mindsets, culture or systems?)
- 4-1-18 支配者文化:システム変革を超えて(Dominator culture: changing systems is not enough)
- 4-1-19 構造はどのように変化するか(How structures typically change)
- 4-1-20 シナジーと規模の経済(Synergies and economies of scale)
- 4-1-21 トップのチームは必要?(Do you need a team “at the top”?)
- 4-1-22 変革の2種類の痛み(Two types of pain along the journey)
- 4-1-23 既存のシステムを導入する?(Adopting a ready-made system?)
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