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2.Perspectives on the journey

2-7 ゼロから始める価値はある?(Is there value in reinventing the wheel?)

執筆に向けた調査中や出版をしたあとに、変革を目指す人と話をするなかで面白い発見がありました。この旅に役立つ考え方です。それはチームが悪戦苦闘することには価値がある、という考え方です。つまりゼロから始めて失敗することに価値がある。私たちのなかには固定観念があると思います。“ミスは非効率だからできる限り避けよう” “苦戦している人には手を貸して生産性を高めればいい” しかし変革の旅ではそれが正解とは限りません。そのことを学んだのはヨス・デ・ブロック氏からでした。

ビュートゾルフ最初のチームは機能しなかったそうです。2007年頃です。過剰なサポートが原因でした。コーチとも長く一緒に取り組んだわけですが、サポートが多すぎて苦労する機会が少なかったのです。つまり学習する機会が少なく、苦労を経て強くなるという機会を持てなかった。そこで方針転換しました。40〜50チームをコーチ1人で担当することにして、サポートしすぎることがない制度にしたのです。チームには悪戦苦闘する期間が必要だと考えたからです。話し合いや対立を通して、自主経営とは何かを理解することで、チームに強さや連帯感が生まれます。

もう少し最近の例を紹介しましょう。ミシュランのリーダーたちです。世界的なタイヤメーカーですが、異例の取り組みを進めました。世界中の工場でいくつか実験をしてから呼びかけたのです。工場で働いている7万人の従業員たちに対し、“自主経営チーム”として働くことを促しました。ミシュランの方針はこうです。“具体的な手段は指示しない” チームにはいくつかの原則を伝えるだけで、具体的な方法は指示しない。2年ほど実験はしていてうまく機能する方法を見つけており、”こんな方法がある”と伝えることもできました。しかしミシュランがチームに伝えたのは、基本的な原則だけでした。詳しくは忘れましたが、原則のひとつは“自分たちでやる”であり、サポート機能は必要に応じて呼ぶだけの補助的なものにしたのです。そして具体的な運営方法は命じませんでした。

たとえば別の自主経営組織では次のような原則があります。”管理タスクを全員で分担すること”。そうやって原則だけ示し、方法は任せるのです。たとえば全体性を目指すチームでまず改善に取り組みたいものが、採用のプロセスだったとします。そこでも原則だけ与え方法は決めません。たとえば、“スキルだけで採用を決めないでください”、“人間性が重要です”、“組織の目的やビジョンに合った人を採用しましょう”。

別の原則もあります。“採用プロセスでは語り合う時間を確保すること”。候補者と採用者が願いや希望を語り合い、歴史や経歴を含め深く話せる時間を作る。それが原則で、方法はチームに任せます。とても良い策だと思います。うまくいく方法をすでに知っているのに、どうしてそれをチームに教えないのでしょう?教えないと苦しみ、失敗するかもしれない。機能する方法を知っているのになぜ?ミシュランの人たちが言うには、前の習慣を取り除き学び直す必要があるのです。それには悪戦苦闘して自ら取り組むことが重要です。もし既存の方法を教えてしまいやり方はこうだと伝えると、何も考えずに従うリスクがあります。奥に流れる価値観を理解しないままになるのです。だから苦闘させるのは良い策です。

私は方法を考えるのが大好きなので、すごいから試してと言いたくなります。特にいくつかの方法はとても独自のもので、自力では気づけないものや簡単には思いつかない方法です。たとえば私の本でも素晴らしい方法を紹介しました。サウンズ・トゥルーという組織のフィードバック法です。こうした方法を自力で考えるのは難しいので、教えた方が簡単なはずです。

だからこのテーマは議論しがいがあります。チームに新しいやり方をゼロから考えてもらうとき、リーダーは原則だけ伝える?細かな方法まで伝える?心から思いますが大切なのは、ヨス・デ・ブロック氏やミシュランのように悪戦苦闘し、原則と向き合ってもらうことです。前の習慣を脱して学び直すことができます。もちろん詳しく方法を伝えることにも一定の価値はあります。普通なら決して思いつかない方法もあるからです。

独自の珍しい方法もあります。この2つの考え方の折り合いをつけるには、新しい方法を2~3つ同時に提示することです。たとえば勤務評価を見直す場合、2つか3つの方法を用意して他のチームの例などを紹介しましょう。そうすれば1つの方法に従うのが難しくなり、複数の案を比較したり融合することになります。それが前の習慣を脱し学び直す機会になります。また別の手段としては、最初は原則だけ与えて取り組んでもらい、苦闘する時間を取ったあとで方法を伝えるのです。

このアプローチがもたらすもう1つの効果は、リーダーの役割の変化です。従来のリーダー観においては、ミスを起こさないことがリーダーの主な義務であり、ゼロから取り組む人たちにミスがあれば介入し、スムーズに進めようとします。しかし今回のリーダーの役割は観察することです。状況を見ながらタイミングをはかりつつ、学ばせたり悪戦苦闘させたりするのです。

大きな多国籍企業との会話を鮮明に覚えています。フランスの支社がまず先陣を切ってミスをしながら学習しました。そしてこう言い出したんです。“他の国も同じミスを犯すのは見ていられない” “どうやって介入しミスを防げるだろう?” そこで議論になりました。本当に介入すべき?それとも他国の人たちにも同じミスをさせるべき? “ミス”は言い過ぎかもしれません。たとえばよく起こるのは、振り子のような揺り戻しです。例を挙げるとするなら、規則や手続きが官僚的だと感じる人たちが規則やルールを排して正反対に走ってしまう。しかしそこでも失敗する。そして再構築に取り組む。こうした振り子の動きは、前の習慣を脱して学び直すプロセスの一部だと思います。

だからリーダーは覚えておきましょう。介入するのが役目だと感じる必要はありません。ミスやゼロからの試みを避ける必要はない。代わりに今の状況が適切かを観察するのです。困ることもあるでしょう。周りはまだ昔のイメージで介入してミスを防げと言ってくるかもしれません。周りからそう期待されて困ることもあるでしょう。でもそれは昔の役割だと自覚しましょう。だから私と同じようにこう問いかけてみてください。これはチームが悪戦苦闘する価値がある?ゼロから試してもらったり振り子の大きな揺れを見守る価値はある?

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