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2.Perspectives on the journey

2-5 試しても安全(Safe enough to try)

2つのフレーズ、あるいはモットーがあります。新しい組織運営を研究するなかで知ったものです。最近ではよく出会います。それが“今はこれで十分”と“試しても安全”です。

従来のマネジメントならトップはこう言うはずです。“変化は必然だ、変化を続けろ”。しかし実際にはその言葉とは違う考えで動いています。もし何かを変える場合、新しく導入するものは完璧であるべきだという考えです。制度として組み込んだらもう変えられない。変更はしないという前提があります。変化は大変なので、“やるなら完璧に”と考えている。そのため延々と分析して先に進めなくなったり、決めることが多すぎて上層部の会議が終わらなくなる。“正解”を出そうとするからです。従来の組織には恐れや完璧主義が浸透しているのです。

新しい組織のあり方はまったく違います。冒頭のフレーズ通りです。“今はこれで十分” “試しても安全” これは、この旅自体にも適用できる考えです。変革への旅を完璧に計画することはできない。次の手はこれだと予感があるなら考えすぎはいけません。これは良いだろうと妥当な根拠を得たらまず試しましょう。重要なのは試して形にして改善していくことです。グループごとの実験結果を比較するのです。“唯一の”正解にこだわって延々と考え続けてはいけません。

正反対の考え方もあるので戸惑う人もいるでしょう。たとえばリーン生産方式のモットーは“最初から正しく”です。まるで正反対の考えですが、最初から最適なものを導入すべきなのはプロセスが決まっている場合です。何かを1万個作る時などは最初から正しいプロセスを導入すべきです。しかし今回挑むのは変革です。初めから完璧を求めると先に進めなくなります。だから“今はこれで十分”と“試しても安全”の2つが重要です。

それを実践するには新しい仕組みをメンバーと共に作っていく必要があります。“これが新しいプロセスだ”と押しつけたり、“今後はこの方法でいく”と命じたりするなら、優れた案を考えてから実行すべきです。しかし皆で考える場合、1,000人もいて全員は参加できない大組織でも全員への呼びかけで集まった有志が決めた案であれば、メンバーは仲間を信頼し進んで取り組むでしょう。“今はこれで十分”という案にです。

例を出しましょう。前回の動画の例です。評価制度を変えたかったとする。年に一度の評価です。最近の企業による評価は、定められた項目に沿って審査するだけになっている。“あなたはこの項目で4点中3点です” “その事例が2つあり…” すごく人間味がありません。これを変えたい場合、従来のモデルで変革に取り組むなら人事部が膨大な時間をかけて制度を再設計し、コンサルタントに相談したり調査をしたりする。そして上層部にプレゼンする。上層部でも何度か話し合われる。正解を求めるからです。1,000人に実行させるので正しい方法を模索する。これが従来のモデルです。多くの時間をかけ恐れで踏み出せない。

でも、どうでしょう。考えてみてください。新しいプロセスでも改善が見られなかったり、実際にあるか分かりませんが前より悪化してしまったとして“試しても安全”と言える?答えはイエスです。破産する訳ではありません。1年試して失敗したところで破産する訳ではありません。まさに試しても安全なのです。だから考えすぎたり時間をかけすぎたりせず、色々と試した方がよくなる可能性が高い。20〜30人の有志を募って話し合ってもらい、人事部が少し手を貸しつつ皆の知恵に任せるのです。そうして出る案ははるかに良いものでしょう。

考えるべきは“今はこれで十分か”です。現状よりは良い案なら完璧でなくても試しましょう。皆に実験を呼びかけるのです。実験しろと押しつけることもできますが、チームに選ばせるといいでしょう。今までのやり方と皆で考えた新しい案を両方用意して、どちらを使うか任せるのです。自由を与えましょう。やり方を統一する必要はありません。

さらに踏み込んだ方法もあります。ビュートゾルフの例です。ビュートゾルフのルールは、すべてのチームが年に一度フィードバックの会話を持つことです。たがいに評価するのです。しかしやり方は自由です。チームによって方法が違う。周りに聞くチームもあります。“どうやってるの?良い方法だね。使ってもいい?” 良い方法が組織全体に広がっていきます。各自が異なる方法で進めても構いません。“試しても安全”です。それにメンバーが満足なら“今はこれで十分”です。この2つはとても大切な考え方です。

これは根本的な発想の転換だと言えます。恐れを基にした完璧主義を脱して、試して実験する精神へ切り替えてみるのです。向上がみられるはずです。組織について考える場合だけでなく、私生活においても活かせる考え方です。恐れを基にした完璧主義を脱するのは素晴らしい。“今はこれで十分”だと受け入れるのです。

この動画シリーズは完璧な例です。原稿を用意することもできる。原稿台だって置ける。そうすれば“えー”なんて言わず、短く簡潔に済ませられる。でも本当に必要?“今はこれで十分”だと思います。私には“これで十分”だし完璧にできるとしてもやらないでしょう。完璧であるよりやってみる方がいいのです。組織においてだけでなく個人でも試してみてください。

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