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つい先日、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」の「特別賞:10年を彩る書籍」部門にノミネートされ、再び話題になっている『ティール組織』(英治出版)。日本での発売は2018年でしたが、原著である『Reinventing Oerganizations』が発売されたのは10年前、2014年のことでした。
10周年にあたる今年、2024年10月10日に発売10周年を記念した場が開かれ、著者フレデリック・ラルー、ビュートゾルフの創設者ヨス・デ・ブロック、次世代組織の担い手をはじめ、世界中の人がオンラインでつながり数百人規模で集っていました。今回は、嘉村と共に参加された小林さんのご協力のもと、実際その場で話された内容をご紹介したいと思います。
ティール出版から10年たった今、フレデリック・ラルーは何をみているのか?触れていただけるかと思います。ぜひご覧ください。
(以下:小林さんによるレポート原文を、ティール組織編集部で編集させていただきました。)
2024年10月10日の夜。正確には、日本時間の10月11日の午前0時、ティール組織の情報発信をしているポッドキャスト「Leadermorphosis podcast」のプラットフォームで、「Reinventing Organizations 10-year anniversary party」と題した、書籍『ティール組織』の発売10周年イベントが開催されました。当日はZOOMに約200名が参加し、YouTube liveで世界同時配信が行われました。また、ベルリンはじめ、ヨーロッパの数か所では、パブリックビューイングのような別会場も設けられていたようです。
私(小林)は、直前に友人からイベントのことを教えてもらい、当日は、youtube Liveで視聴しました。以下に、そのイベントのレポートをお届けします。
構成は、
・書籍発売以来、10年間の振り返り
・フレデリックの現在地
・未来へのセンシング
という3つのパートからなり、その後は「アフター・パーティー」と銘打たれた参加者との交流会や質疑応答が行われました。本編が約90分、アフターが約60分、約2時間半の内容でした。
まずは、「この10年間のベンチャー(冒険)に参加したすべての人にハイライトを当てたい」という、フレデリックの冒頭のスピーチが印象的でした。
Index
冒頭のアンケート
主催者のリサ・ギルらがモデレーターを務め、最初に簡単にその場でできるアンケートがありました。
質問の内容は、「本を読んで以降、どのような行動変容があったか?」というもので、8つの選択肢があり、複数回答が可能でした。「ティールのコミュニティに参加するようになった」「仕事を辞めた」「ティール関連の翻訳をした」「ティール関連の本を書いた」「自分で事業を始めた」などが含まれていました。
「ティールのコミュニティに参加」という回答が多いのは当然ながら、意外にも会社を辞めて独立した人が多いことが分かりました。モデレーターもその点に触れていました。
書籍発売以来、10年間の振り返り
そして書籍発売から、10年間の鍵となる出来事を紹介していく時間がありました。
2014年2月『Reinventing Organizations』の初版が発売。(その後各国で翻訳)
2014年4月「ディスコース」と呼ばれる対話プラットフォームの運用が開始。
2015年7月ティール関連のニュースレターマガジン「Enlivening Edge」の立ち上げ。
2015年7月Reinventing Organizations Wikiの立ち上げ。
2015年11月『Reinventing Organizations』のイラストブックのクラウドファンディング開始。
2016年1月イラストブック版『Reinventing Organizations』が発売。
2018年11月動画シリーズ「Insight for journey」の公開開始。
2020年3月第1回 Teal around the world(TATW)を開催。
2020年6月「The Week」が公開。
2021年2月Wikiがリニューアル。
2024年10月『Reinventing Organizations』発売10周年を祝う。
*ティール組織ラボ補足:日本国内の動き
2018年 1月 『ティール組織』(英治出版)が発刊される。
2019年 9月 『ティール・ジャーニー・キャンパス』@東京工業大学 が開催。
2020年 『ティール組織』(英治出版)が組織論としては異例の10万部突破。
2020年 8月 ティール組織ラボ発足。
3つのショート・ストーリー
10年間の振り返りとして、3組の実践者から1人10分程度のショート・ストーリーの紹介がありました。
1.ウガンダのトニー
2.アムステルダムのケリー
3.ビュートゾルフ創始者ヨス・デ・ブロック夫妻、その息子である現ビュートゾルフ・インターナショナルCEOタイス・デ・ブロック
ここで、ヨス・デ・ブロックという大物が登場した感がありました。和やかな雰囲気の中での会話でしたが、「産業革命によってもたらされた古い世界の考え方を、ヒューマニズムに基づく、新しい世界へと移行させていく」という力強い言葉があったのが印象的でした。
フレデリックとの会話
モデレーターがインタビューする形式で、この10年間の振り返り、現在地、そして未来といったテーマで、フレデリックの話が聞けました。(M:モデレーター、F:フレデリック)
M:本を書いた時、こんな世界中に広まると思っていましたか?
F:元々、ケン・ウィルバーについての知識はあった。そして、リサーチしたものをその理論に当てはめ、どちらかというと、本は自分のために書いた。こんな多くの人に読んでもらえるとは想像していなかった。
M:『ティール組織』の続編の予定とかはないのでしょうか?
F:「Insight for the journey」の動画シリーズがその続編だよ。
*ラボ補足:動画シリーズ日本語字幕ver
M:今、このZOOMに参加している世界中のリーダーに伝えたいことはありますか?あなたの何をレガシーにすべきですか?
F:私ではなく、それぞれのコミュニティ自体がパワフルで、それぞれにやり方があるということは伝えたい。答えはそのコミュニティが持っているということ。実際、現在のフランスの教育を見てもそうだが、やるべきことはたくさんある。
M:一般に「グリーンの罠」と呼ばれるものはありますが、グリーンからティールに移行する際にはどのようなインサイトが必要になってきますか?
F:オレンジのメカニズムのことは見えていて、そこからコンセンサスが大事となったのが、グリーンの視点。今度は、専門性や経験、人脈といった自然に存在するヒエラルキーにスポットを当ててフォローする。となると、「全員平等」というパラダイムからは抜け出せるはずだ。
*ラボ補足:ナチュラルヒエラルキー…ティール WIKI の 組織構造 に記述がある。
M:世界中の大きな組織がみんなティール化できるようリーダーを説得するには何が必要ですか?
F:説得するという試みはお勧めしない。オレンジ組織のリーダーすべてがティールを理解できるとは思わない。しかし、説得ではなく、痛みに耳を傾けるというアプローチなら出来る。
*ラボ補足:動画シリーズ 8-3 トップリーダーを説得する(Convincing top leaders)
M:10年前の世界と比較して、今の世界はどのように見えていますか?
F:世界中に起こっている問題はたくさんあるが、10年前と今とではリーダーの会話も変わってきている。物事は世代と共に変化するという言葉がある通り、ゆっくりだが確実に変化は起こっている。次の世代のリーダーは、10年前のリーダーとはきっと違う視点を持っているだろう。
M:あなたの次のプランについて教えてください。
F:特に決まってはいないが、常に5~6のアイデアはある。
M:最後に参加者の方へ向かって一言お願いします。
F:ただ信じるということは、思っているよりもはるかに強力だ。あなたが深く大切に想っていることがあったら、それを言葉にして外に出すリスクを取って欲しい。周りを傷つけると思うかもしれないが、実際には世の中はそんな脆弱なものではない。あなたが深いところから話すと、周りはそれに共鳴してくれる。すぐに効果が表れるものではないが、皆が大切にしているものを結びつけるにはその方法しかない。
アフター・パーティー(質疑応答)
(Q:質問者、F:フレデリック)
Q:政府レベルで変革が起きた例はありますか?
F:政府ではないが、自治体レベルではある。変革の規模には順番がある。アーティスト、起業家、小さな政治システムから始まり、最後は巨大な経済システムに及ぶ。
Q:本と現在の気候プロジェクトにはつながりがありますか?
F:最初はつながりがないと思っていた。やりたいことが優先されていたからね。しかし、グループの深い感情的なつながりや、助け合い、深い対話から生まれる全体性を通して、今では両者がしっかりとつながっていると感じている。
Q:本を書いた後、組織からどんなことを学びましたか?
F:本を書いた時、組織変革の方法は知らなかった。事例を書いただけで、変革の方法自体はその後フィールドで学んだ。それが動画に反映されている。ゴールを知ってそれを目指すというより、誤解や落とし穴を見つけながら続ける旅のような感じだ。
Q:現在、どのような団体がどのようなアプローチをしているか、いくつか団体名を挙げてもらえませんか?
F:今は気候変動に取り組んでいるので、ティールの最新情報を直接持っているわけではない。むしろ「Enlivening Edge」やリサのポッドキャスト「Leadermorphosis podcast」を参照してほしい。それらが集合的な知識の集積場所だ。そこには組織開発だけでなく、医療、農業、学校教育が生命論的なシステムとして、オレンジからグリーン、そしてティールへと進化している様子が取り上げられている。
Q:恐怖を手放すという仮定について教えてください。人間は恐怖に縛られるというパラドックスがあるはずですが、その対処法は?
F:信じて手放すことが重要だ。手放すことには恐怖が伴うのは当然だが、私たちはヒエラルキーによって生命感が失われるプロセスを知っている。組織を生命感のあるシステムにするには、コントロールを手放すしかない。一部の人がコントロールするのではなく、システム自体が自己修正できるようにすることが必要だ。それには手放すことが賢明だ。一方で、システムが自己修正できない状況で手放せないと感じるのは正しい反応だ。しかし、整ったら信じて手放すことが大事だ。
Q:学校は私たちにコントロールのパラダイムを植え付ける機関だと思いますが?
F:学校教育を変えるのはとても難しい。親はみな自分の子どもの成功を願い、厳しい競争に勝ち残る術を身につけて欲しいと思っている。しかしそれは、社会生活の中で子どもが実験台になることを意味している。まず親自身が自分の学校での経験を嘆き悲しむ時間が必要だ。その悲しみを乗り越えた上で、子どもの未来を喜んで考えられるスペースが求められる。
Q:学校教育の話をすると、グリーンとヒエラルキーの板挟みに必ず遭遇します。
F:ピーター・グレイの本「遊びが学びに欠かせないわけ―自立した学び手を育てる」をおすすめする。彼によると、狩猟時代の人間は遊びながら狩りをしていた。しかし、農耕時代に入り、そこに堕落が生じるという共通の神話が世界中にある。つまり、教育は読み書きを教えるだけでなく、社会に適応するための場となっている。初頭教育では一日中座ることから始まる。
Q:金融業界にも組織や教育と同じような変化が起きているように感じます。
F:通貨システムの移行は現実に起きている。現在の金融システムには限界があるようだ。
Q:チームの成長について考えなければなりませんが、労働市場は肩書で値付けされており、組織を超えたキャリアアップが難しいです。
F:自分の得意分野を外の世界でどうマッピングするか考えてみるといい。肩書を持つことや、複数の人からピアベースのレビューを受けることが助けになる。
Q:この10年間、ソースを提供し続けたあなたを定義する言葉はありますか?
F:あえて言うなら「スペースホルダー」だろう。役割はCEOのように、名前は一つかもしれないが、機能は複数ある。
最後にフレデリックより
近年の気候変動への取り組みの旅を通して、何ができるか知りたいと思う時がある。皆さんには、困難や悩み、落胆した瞬間について話すスペースを作ることを強くお勧めする。そういう場所では、必ず異なる段階にある人が私たちを助けてくれる。
私はこの活動を通して、私たちは悲しみを消し去るべきではないということを学んだ。それと同時に、「痛みを望んではいけない」ことを知っているということも学んだ。
困難や痛み、意気消沈した瞬間について話すことができるスペースがあれば、私たちはより深い視点や新たな視点を持って、反対側に行くことができる。もしそういう空間を創るよう求められていると感じる人がいたら、それは素晴らしいことだと思う。
参加した感想
小林
こちらのイベントに参加して、私は大きく2つの感想を持ちました。
一つ目は、「退職」についてです。ティールという働き方を知ってしまうと、ヒエラルキーが嫌になり、会社を辞めて自分でビジネスを起こす、という流れはよく理解できます。モデレーターの会話の中で、この表現は2度出てきたと思います。一方で、大企業の中でもがき、少しでもよくしていこうと努力している人たちも多く存在します。むしろ、こちらの方が大多数ではないでしょうか?もちろん、どちらが正しいということではありません。ただ、大企業の中で変革に取り組んでいる人たちが、フレデリックが言うように「説得する」というアプローチを取ると、確かに厚い壁に跳ね返されてしまうでしょう。そういった意味で、フレデリックが言っていた「痛みに耳を傾ける」というアプローチは、大企業で働く人たちにこそ必要だと感じました。
二つ目は、オレンジからグリーン、もしくはグリーンを経ずにティールに向かう動きが、世界共通であることを知った点です。さらに、この「新しいモダリティ」と呼ぶにふさわしい現象は、組織開発以外の分野、つまり教育、医療、農業、金融など、社会のあらゆる場面で同時多発的に起こっているといいます。つまり、ティールを学び、行動することは、社会変革そのものに関与しているということです。このイベントを通じて、そのことを強く実感しました。
嘉村
今回、この10周年パーティは北海道美瑛町で夜中に参加していました。ちょうどベルリンから来日しているソース原理・マネーワークのスペシャリストのナーディアと3日間のワークショップをホストした最終日の夜でした。ナーディアはフレデリックとも親交があります。
3日間の達成感と共に2018年に清里でフレデリックとホストした3日間のことも思い出しました。 一週間という短い来日の中、「観光とかは別に気にしなくてよいからね。必要な時間僕の時間を全部使って良いから」と講演会やワークショップを盛り込んだ時間をコーディネートさせてもらいました。その時間は、フレデリックの優しさと、次に美しい世界を残したいという情熱を感じた時間だったのです。
今回10周年の場で、久しぶりにフレデリックの話を聞き、「世界は確実に進化している。これからが人類の本領発揮だ」という感覚が私の中に浮かんできました。すでにフレデリックは組織分野での探究は終了して、気候変動の問題解決に向けて人生の時間の使い方をシフトさせてています。彼の功績を讃えるとともに、これから先は一人一人が探求と実験を繰り返しながら新たな地平を切り開いていくのだ。と改めて自分自身の想いに立ち返る機会を得ました。
執筆者:小林範之 編集:嘉村賢州・山本彩代
投票企画と今後の学びの機会
【投票は12/27まで】「読者が選ぶビジネス書グランプリ2025」の「特別賞:10年を彩る書籍」部門で『ティール組織』(英治出版)がノミネートされています。ティール組織をはじめとする新しいパラダイムの組織づくりは、数十年がかりの人類のチャレンジです。他の部門や候補書籍を眺めるだけでも良書に再会できて面白いページになっています。ぜひご協力をお願いいたします。
※特別賞の対象:既刊本
ビジネスパーソンが「この激動の10年で最も支えになった」と考えるビジネス書
嘉村編集長が選ぶ2024年の重大トピック5つとは???
基礎的な部分から知りたい・改めて学びたい方へ
小林範之
kobayashi
マンパワーグループ株式会社ライトマネジメント事業部コンサルタント。自治体の主催する職場定着等を支援する事業の事業マネージャーを歴任。300 社以上の中小企業の職場環境改善活動にかかわった経験を持つ。現在は大手企業中心に研修等の企画・営業を担当している。『ティール組織』の著者、Frederic Laloux の動画サイトの日本語翻訳プロジェクトに参加。一般社団法人 自然経営研究会 代表理事を歴任。
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