読みもの
Article
share
Top page
次世代組織の探究において、「意思決定」のあり方は避けて通れないテーマです。
ティール組織やソシオクラシー、ホラクラシーなどを学んでいる方であれば、「助言プロセス」と「コンセント」という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。
助言プロセスは、権限が分散された後の意思決定の方法です。最終的には一人または小さなチームが決めるが、専門家や影響を受ける人の意見は必ず聞くという形で機能します。
一方、グループとして意思決定を行う際の基盤となるのが、コンセント(Consent)という考え方です。コンセンサス(全員がYESになるまで話し合う)というグループの意思決定をアップデートする上で最近注目を集めています。
今回はこのコンセントについて深堀りしたいと思います。

Index
多様な意思決定方法とそれぞれの限界
コンセントが注目されている背景には、これまで主流だった意思決定の限界があります。階層型のトップダウンは速くて明確ですが、組織が複雑になるほど情報が集中し、トップの負担が増大します。多数決はスピーディですが、少数意見を押し切ることで分断を生みやすく、組織の学習力を下げることもあります。
全員一致を求めるコンセンサスは丁寧ですが、全員の納得を待つあまり決定が遅れ、「決められない組織」になってしまうことも少なくありません。
なぜ、コンセントか?
ではなぜ、今コンセントなのでしょうか。それは、私たちが置かれている環境が大きく変わったからです。変化が速く、正解がなく、専門性が分散している時代において、完璧な決定を会議室で導き出すことはほぼ不可能です。
必要なのは、完璧な決定ではなく「修正可能な決定」です。
コンセントとは、全員の賛成を探すのではなく、「致命的な反対がなければ進む」という意思決定です。まず安全に試し、そこから学び、必要なら修正する。この反復可能性が、組織の学習力を高めます。
最初に提案したもん勝ち?
コンセントは非常に役立つ意思決定の方法で、この方法の導入によりチーム活動が軽やかでスムーズになったという組織はたくさんあります。しかし、実践を始めると多くの組織が同じ疑問に直面します。「これって結局、最初に提案した人が勝つのでは?」という問いです。
たとえば、「オフィスが手狭なのでAビルに引っ越しませんか?」という提案が出たとします。致命的な問題がなければコンセントは成立し、方向性は自然と「引越し」に固定されます。しかし本来は、「そもそも引越しは必要なのか」「リモートワークを増やすという選択肢は?」「他にどんな解決策があるのか」といった根源的な問いもあるはずです。ところが一度提案が場に出ると、その枠組みの中で議論が進みやすくなる。一見民主的に見えて、実は最初の提案が議論の射程を決めてしまう。この違和感は、多くの実践者が感じるところです。
この問題の本質は、コンセントが「決め方」であって「問いの立て方」ではないという点にあります。コンセントは、提示された提案をどう扱うかについては精緻なプロセスを持っています。しかし、「どの問いから検討を始めるか」「何を前提として考えるか」という前段階までは扱いません。
だからこそ、すべての議題を同じ深さで扱うのではなく、議題の重さに応じて意思決定のモードを切り替えるという設計が必要になります。

Decision Mode(意思決定モード)のすすめ
ここで有効なのが、「Decision Mode(意思決定モード)」という考え方です。議題の重さや影響範囲に応じて、意思決定の深さを変えるという発想です。

まず、日常的なお題は「Quick Decision(日常モード)」で扱います。
日程調整や小さな予算、ツールの選定などは通常のコンセントで十分です。「致命的な懸念はありますか?」「試してみるのは安全ですか?」というシンプルな問いを投げ、問題がなければ進めます。スピードと軽やかさを優先します。このモードはソシオクラシーの基本的なコンセントの概念を活用していきます。

次に、「Important Decision(重要モード)」です。
金額が大きい、不可逆性が高い、組織文化に影響するなど、中長期に影響を与えるテーマはここに入ります。この場合、いきなりコンセントにかけるのではなく、前段を丁寧に扱います。まず「何を解決したいのか」「何が起きているのか」というドライバー(動機)を確認します。次に、選択肢を広げます。「引越し以外の選択肢は?」「何もしないという選択肢は?」「小さく試す方法は?」と問いを広げ、最低でも複数案を出します。その上で初めてコンセントに入ります。
こうすることで、最初の提案に議論が固定されるのを防ぐことができます。ドライバーの概念はソシオクラシー3.0の考え方を活用しています。

さらに重いテーマは「Strategic Decision(戦略モード)」です。
ビジョン変更や大規模投資、存在目的に関わるテーマは通常の会議では扱いません。半日から一日、場合によってはそれ以上の時間を確保し、深い対話を行います。「私たちはどこに向かおうとしているのか」「この決定は五年後どう影響するのか」「何を守り、何を手放すのか」。こうした問いを丁寧に扱う時間が必要です。

モードの切り替えはどうする?
では、これらのモードはどう切り替えるのでしょうか。
提案者が議題を出す際に「これはQuickでいけそうですか? それともImportantで扱いますか?」と問いかけるだけでも十分効果があります。同時に、メンバー側からもモード変更を提起できることが重要です。ただし乱発を防ぐため、「不可逆性が高い」「影響範囲が広い」など、理由を言語化することが望ましいでしょう。モード変更そのものもコンセントで確認すれば、プロセスの一貫性は保たれます。

まだまだ完璧な方法はない
コンセントは完璧な民主主義ではありません。しかし、全員一致を待って停滞する状態から抜け出し、「修正可能であり、安全に試せて、しかも少数意見を排除しない」という意味で、現時点において非常に進化した意思決定の技術だと感じています。
そして私たちが次に探究すべきは、「誰が決めるか」という権限の問題だけではありません。「どの問いから決め始めるのか」「どんな前提で考えるのか」という、より深い領域です。組織の存在目的に耳を澄ませながら、問いの質を磨いていくこと。そのプロセスこそが、次世代組織における意思決定の核心なのではないでしょうか。
組織のフェーズや重心はそれぞれ異なります。ぜひ皆さんの組織でも、Decision Modeという視点を持ちながら、自分たちに合った意思決定の形を探究してみてください。
嘉村 賢州
Kenshu Kamura
2008年場とつながりラボhome’s vi設立。現在は「未来の当たり前を今ここに」を掲げ、次世代組織の普及や北海道・美瑛町の支援に携わる。2023年の第一子誕生を機に家族中心の生活へ。著書に『ティール組織』(解説)『ソース原理[入門+探求ガイド]』(共訳)等。
PICK UP
注目のお知らせ