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オランダ視察報告会:ビュートゾルフ&トリオドス銀行で見えた、管理を手放し「信頼」で回る組織のリアル
2025年11月26日(水)、コミュニティ・バンク京信にて「オランダ視察報告会」が開催されました。
報告会のテーマは、オランダにある世界的に有名な訪問介護組織「ビュートゾルフ(Buurtzorg)」と、サステナブルな金融を実践する「トリオドス銀行(Triodos Bank)」の視察報告です。
登壇者は、ツアーを主催した嘉村賢州さん(場とつながりラボhome’s vi 代表・ティール組織ラボ 編集長)、但馬武さん(fascinate株式会社 代表)、長谷亜紀さん(認定NPO法人ノーベル 代表)、そして司会進行も務める竹口常務理事(コミュニティ・バンク京都信用金庫)の4名。
単なる事例見学ではなく、現地で「体験」し、肌で感じた「あり方の変容」について、楽しくも熱く語り合う時間となりました。

第1部:ビュートゾルフ —— 管理職ゼロ、1万5,000人の自律組織
なぜ「管理」を手放せるのか
まず嘉村さんより、ビュートゾルフの概要が語られました。2006年に5人でスタートしたこの組織は、今や1万5,000人の看護師を抱え、オランダのシェア3分の2を占めるまでに成長しています。しかし、その構造は驚くべきものでした。
嘉村さん
「1万5,000人の看護師に対して、管理職は一人もいません。10~12名チームが横並びに1000チーム以上あり、バックオフィスはたった50人。それでも利用者満足度は業界平均を大きく超える9.3を実現しています。既存の組織が効率化のために時間を管理し、マニュアルで縛ることで看護師のやる気を削いでいたのに対し、創業者のヨス・デ・ブロックは『そんなもの全部やめてしまおう』と決断しました。
『看護師は人を幸せにするためにその仕事を選んだはずだ。そもそも彼女たちは高い専門性(プロフェッショナル)を持っていて、患者の未来を作れる存在なんだから、管理職がチェックしたりビジョンを下ろしたりするのではなく、全部任せてしまえばいいじゃないか』と。信頼して任せることで、結果として間接費は業界平均25%に対し、たった8%で済んでいるのです」

「ルールが必要か?」という問い
実際に現地を訪れた長谷さんは、ビュートゾルフのメンバーが放つ「誇り」と、現地で投げかけられた問いに衝撃を受けたと語ります。
長谷さん
「どのスタッフもキラキラしていて、誇りを持って働いているのが一目でわかりました。彼女たちにルールのことを聞くと、逆にこう返されたんです。『ルールが必要なんですか? 大体のことは社会の常識があればできるよね』と。
『服装の規定とか言う必要あります? ヒール履いてネイルして訪問看護に行く人っていますか? そんな人はそもそもいらないでしょ』とさらっと言われて。
また、私たちが『段階的に組織を変えていこうか』と相談すると、『信頼にステップはないよね。段階的にやるというのは、まだスタッフを信頼していないってことですよね』と図星を突かれ、グサグサきました」
ケアの本質は「自立」を促すこと
但馬さんは、実際に看護師に同行する「ナース・シャドウイング」での体験を共有しました。そこで見たのは、ビジネスライクな関係ではなく、人間同士の深い絆でした。
但馬さん
「おじいちゃんと孫のような会話がずっと続いているんです。でも、ただお世話をするだけではありません。ビュートゾルフの目的は『依存させること』ではなく『自立』です。靴下を履かせてあげるのではなく、自分で履けるように支援する。
スタッフ自身も、自分たちが何のために看護師になったのか、その原点に立ち返っているからこそ、高い自尊心を持って働けているのだと感じました」

また、IT活用の側面でも、「管理のため」ではなく「現場のため」に徹している点が強調されました。
但馬さん
「透明性が非常に高いんです。タブレットですべてのデータが見られる。でもそれは競争させるためではなく、雪山で自分の命を守るために計器を見るのと同じで、自分たちのチームの状態を知るためにデータがあり、コーチは答えを出さずに、チームが自分たちで解決するのを待つ。その仕組みが徹底されていました」
第2部:トリオドス銀行 —— 社会変革のための金融
「きれいごと」を貫く強さ
続いて報告されたのは、「人・地球・利益」を掲げるトリオドス銀行。コミュニティ・バンク京信と預金・貸出規模が近く、竹口常務にとっても多くの共通点と学びがあった場所です。
竹口さん
「化石燃料には投資しないなど、明確な基準を持っています。単に共感するから支援するのではなく、少しでも基準からずれていれば融資しないという厳格さがありました。普通、銀行であれば『取引をお願いされたら断らない』となりがちですが、彼らは『構造的な欠陥があるシステムを変える』というミッションを掲げ、徹底してサステナブルな分野に資金を流しています」

逆風さえも追い風にする
視察時、世界情勢は環境配慮への逆風も吹いているタイミングでした。しかし、現地のバンカーの反応は意外なものでした。
但馬さん
「トランプさんが温暖化対策に否定的な発言をしていることについて、『影響はないのか』と聞きました。すると彼らは『むしろありがたい』と言うんです。『他の金融機関が尻込みするからこそ、本気で地球を良くしたいと思っている本物の人たちが、俺たちのところに来るんだ』と。自分たちで旗印を立てることで、ビジネスとしても成長していると自信を持って語っていたのが印象的でした」
第3部:リーダーシップの変容とこれからの展望
自身の「弱さ」と向き合う
視察の最終日はベルリン在住のコーチ、ナーディアさんを招き、特別なワークショップ(マネーワーク)を行いました。テーマは、リーダーが内面に抱える葛藤や、無意識に避けている「影(シャドウ)」と向き合うこと。
竹口さん
「自分が絶対に見せたくないものは『弱虫』でした。本当は弱いのに、それを見せたくない。その対極にあるのが『独裁者』です。自分は独裁者にはなりたくないと思っていましたが、独裁者になりたくないあまり、必要な場面でも強く出ることを恐れていたのではないか。『弱さ』も認めつつ、時には『独裁者』的に強く言い切ることも必要だと、そんな気付きと覚悟が得られた時間でした」
日本でどう活かすか
最後に、この視察を経てそれぞれが自組織でどう動いていくか、決意が語られました。

嘉村さん
「今回の視察を通じて、頭で理解するだけでなく、肌で感じることの重要性を改めて強くしました。なので、もう一度15人ぐらいで視察に行きたいと思っています。 また、来年は私なりに噛み砕いた『ビュートゾルフ入門講座』や、現場を支える『コーチ』という役割を学ぶオンライン講座なども仕掛けていきたいと考えています。次世代組織について、もっと体感的に理解できるような場を作っていきたいです」
長谷さん
「ビュートゾルフから学び、新しい事業『子育て家族のまるごとサポート』をリリースしました。あえて『サービスメニュー』を作らず、目の前の人が困っていることに何でも向き合う事業です。
現場のみんなが誇りを持って、チームで解決していく。そんな組織を日本でも作っていけるという可能性を強く感じています」
但馬さん
「『愛される企業(Loved Company)』を増やしたい。組織のこと、事業のこと、ファンのこと、これらが分断されていることが多いですが、すべては繋がっています。
働いている人の情熱や創造性を大事にする組織デザインがあれば、世の中を変えていける。今回の旅でそう確信しました」
竹口さん
「ビュートゾルフとトリオドス、共通していたのは『信頼』というワードです。管理や命令ではなく、信頼をベースにする。
この熱い経験を自分の中にしまうのではなく、地域社会、顧客、そして金庫が信頼で繋がる未来に向けて、しっかりと行動に移していきたいと思います」

おわりに
「百聞は一見にしかず」で始まった今回のオランダ視察。 それは単なる事例見学ツアーではなく、参加した15名の一人ひとりが「本当の願い」に気づき、互いに背中を押し合うコミュニティへと進化する旅となりました。
ビュートゾルフやトリオドス銀行のような組織は、決してオランダだけの特殊な事例ではないはずです。 「信頼」をベースにし、個人の「全体性」が発揮される組織は、日本でも必ず作れます。そして、その芽はすでにここに参加したメンバーたちによって蒔かれ始めています。
丸毛 幸太郎
Kotaro Marumo
2012年からファシリテーションをベースに幅広い「場づくり」や「プロジェクト」に関わる。現在は鳥取ローカルとオンラインを行き来しながら「関わる人たちにいい風をおくる」をテーマに活動中。推しは燗酒と2人の息子。
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